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2022

2022年2月の読書まとめ

冊数は少ないが濃密な読書体験

2月の読書メーター
読んだ本の数:6
読んだページ数:1605
ナイス数:724

また気がつけば3月も下旬ですが、更新します。

2月は1月よりも冊数が読めなかったものの、濃密な読書体験ができました。

怒りの葡萄(スタインベック)

2月に読んだ本の中では、まず「怒りの葡萄(新潮文庫)」を挙げたい。

1930年代・大恐慌時代のアメリカ南西部の農民達を描いたジョン・スタインベックの代表作だが、タイトルこそどこかで耳にしたことはあるものの、今回初めて手にとった。

きっかけは、Instagramで僕の敬愛する著述家・千田琢哉さんの名言紹介アカウントによる蔵書紹介シリーズで紹介されていたこと。

【千田琢哉の蔵書008】 - 「怒りの葡萄」

ちょうど読んだことのない作家の本を読んでみようと思っていたタイミングだったので調べてみたところ、同作品はいくつもの翻訳が出されており、千田琢哉さんのインスタに映っていたのは新潮文庫の旧訳(大久保康雄・訳)だということがわかった。

それぞれの訳に特徴があり、いま書店で手に入れやすいのは新潮文庫の新訳版ハヤカワepi文庫版だったのだが、千田さんの蔵書と同じ大久保訳で読んでみたかったのでAmazonマーケットプレイスで中古本を入手した。

上下巻構成の上に1冊が分厚く、また登場人物たちの台詞にクセ(アメリカの南部訛りが日本語でも田舎訛りに訳されている)があって読み切るのに時間がかかったが、とてもよかった。

いや、よかったという言葉では言葉足らずだな。

---以下、作品のネタバレを含みますのでご注意ください---

大干ばつで干上がった土地をトラクターに追い出され、仕事があるというチラシを頼りに、家を捨ててカリフォルニア州へ向かうジョード家。オンボロ車による長距離移動の旅は過酷で、ひとり、またひとりと家族が欠けていく。

ようやくたどり着いたカリフォルニアも理想郷とはいかず、ジョード家のように他州から仕事を求めて流れてきた難民たちであふれ返っていた。

そんな中でも労働難民たちはキャンプ場で自治をはかり、思いやり、助け合い生き抜こうとする。 官憲は彼ら浮浪者が騒ぎを起こしたらそれを口実にしょっ引こうと煽動者を潜り込ませたりするが、労働者たちはそれを見抜いて未然に取り押さえたりもする。過酷な状況の中でも人々は尊厳を失わずになんとか生きていこうとする逞しさがある。その一方でジョード家の柱だった父親は求心力を失ったり、男達は理想とはかけ離れた現実を直視できず、家族の下を離れたりといった人間の弱さもまた描かれている。

そのような人間存在の描写がこの「怒りの葡萄」が賞賛される理由なのだと想像するが、もう一つ個人的には気になったことがある。

本書に登場する農民達はトラクターに土地を追い出され、なけなしの仕事は安く買いたたかれる。

土地を奪われた怒りをぶつけようにも、その矛先はトラクターに乗っている小作人にも、それに命令している銀行にも、銀行に命令している東部(銀行の株主か?)にも向けることができない。権力の階層構造は限りなく、行き着くことがない。

大量にあふれた労働力は市場で価格競争を強いられ、価格は際限なく下がっていく。

この構造って、約90年前と今とで、まったく変わっていないんだな、と。

「富める者はますます富み、貧しき者は持っている物でさえ取り去られるのである」とはマタイ伝の一節だが、この法則は姿を変え言葉を変えても、その本質は2000年前も100年前も現在も変わっていないということを、図らずも本書を読んで再確認した次第。

じゃあ、どうすればいいかというと自分も「持てる側」に移っちゃえばいいじゃない、というのがよくある自己啓発の常套句でして、かくいう自分も細々と投資なんかしちゃったりしてるわけですが…。

単純にそれでいいのか?という疑問も「怒りの葡萄」を読んだあとで心の片隅にあるんだよね。

もちろん、自分の居場所と生活の糧を奪われないための手段を講じなければいけないというのは理解しているのだけど。

何も持たなくても自分と自分の家族だけでなく、他者への慈しみを忘れなかったジョード家の母親や、最後の最後、その慈しみに目覚めたローザシャーンの人としての尊厳がね。

自分が生きていくための富を築くことと、貧しくても分け与えることのできる慈愛の精神とは両立するのか、みたいな。

そんな二項対立が脳内に浮かんで悶々としています。

簡単には整理のつかない問題なので、またどこかで書けたら書きます。

2022年2月に読んだ本一覧

お味噌知る。お味噌知る。感想
土井善晴さんと娘の光さん初の共著。「一汁一菜でよいという提案」の実践版のような内容。レシピといっても紹介されているレシピの多くは細かい分量は書かれていないのだけど、そうでなくても大丈夫、というのはいつも味噌汁を作っていて感じることでもある。分量の許容度合や意外すぎる具材の取り合わせに、味噌汁って実に懐が深いなとしみじみと思った。
読了日:02月04日 著者:土井 善晴,土井 光
とびきり良い会社をほどよい価格で買う方法 (ウイザードブックシリーズ Vol.260)とびきり良い会社をほどよい価格で買う方法 (ウイザードブックシリーズ Vol.260)感想
最近「企業価値評価」など投資に関する本を読んでいるのでこの本もパラパラと再読してみた。「企業価値評価」で述べているDCF法は理論的に企業の価値を算定する最良の方法ではあるが、株式投資で適用するには制約もある。チャーリー・ティエンの本書ではDCFも取り上げるが、投資判断をするためによりざっくりとかみ砕いた手法や、PERやPEG、PSRなど様々な株価指標の使い方も示している。グレアム式のネットネット株などについても触れているが、結論としては一貫した利益を上げ続ける優良株を適正な価格で買うことに尽きる。
読了日:02月11日 著者:チャーリー・ティエン
怒りの葡萄 (上巻) (新潮文庫)怒りの葡萄 (上巻) (新潮文庫)感想
1930年代のアメリカ・オクラホマ州、乾上がった土地の小作農たちが土地を追い出され、肥沃な土地で仕事があるというカリフォルニアを目指して移動を始める。しかし一家の面々は過酷な旅に一人また一人と脱落していく。登場人物達の率直な言葉や食事の描写、おんぼろの車を自分たちの手で直す描写が素晴らしい。金も土地もないが善良で助け合う人々と、土地を持つが土地を耕さず金勘定に汲々とする資本家達の対比が印象的だが、1930年代というのは大恐慌で資本家も大きな損失を被り大変な時代だったというのは知っておくべきだろう。
読了日:02月11日 著者:スタインベック
やり抜く人の9つの習慣 コロンビア大学の成功の科学 (コロンビア大学モチベーション心理学シリーズ)やり抜く人の9つの習慣 コロンビア大学の成功の科学 (コロンビア大学モチベーション心理学シリーズ)感想
成功者と呼ばれる人達に共通する思考や行動のパターンを9つの習慣として紹介している。とても端的にまとまっていて無駄がなく、あっという間に読める。書いてある内容自体もとりたてて新奇なものではないが、「はじめに」にも書かれているとおり、最も大切なことは、本書の内容を実際の行動に移すことなのだろう。自分のやりたいことや目標も本書に従って行動に移したい。そして本書は座右に置いて、何度も読んで身にしみこませたい。
読了日:02月12日 著者:ハイディ・グラント・ハルバーソン
怒りの葡萄 (下巻) (新潮文庫)怒りの葡萄 (下巻) (新潮文庫)感想
下巻はほとんど一気読みだった。ロードノベル的な要素が多めだった上巻と違い、下巻はカリフォルニアに着いたジョード一家が仕事と住み場所を求めて転々とする。劣悪な環境のフーバビル、居住者たちの自治が行き届き快適だが仕事がない国営キャンプ、そして住み込みで働けるが食料分を稼ぐこともままならない綿花農園…。ここでも少しずつ一家がバラバラになっていくが、どんな場所でも家族をなんとか維持しようとする母が強くたくましい。身重の”シャロンのバラ”がずっと不満を垂れていたのが、最後の最後で見事に変わったのが鮮やかだった。
読了日:02月16日 著者:スタインベック
Warren Buffett's Letter to Berkshire Shareholders 2021Warren Buffett's Letter to Berkshire Shareholders 2021感想
バフェット氏がバークシャー・ハサウェイの株主に向けて毎年書いている手紙の2021年度版。今年の動きは多くなかったが、トピック「Surprise,Surprise」として、バークシャー社が金融資産のコレクションと一般に思われているのに反して、アメリカのどの企業よりも巨額のインフラ資産を保有していること、またバークシャーが祖業の繊維事業を営んでいた1965年当時($100/日)と比較して、実に9万倍($9百万/日)もの税金を国に納めていることを紹介している。(続く)
読了日:02月27日 著者:Warren E. Buffett

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