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2019
8月22日から24日まで、石川県の七尾市へ行ってきた。
主な目的は、七尾に拠点を構えるテーラー(サルトリア)である、Sartoria Cavuto サルトリア・カブトにスーツをオーダーすること。
なぜわざわざ東京から遠く離れた場所のテーラーに?と思われるかも知れない。
僕はしばらく前からスーツやシャツのオーダーメイドに興味を持っていて、すでにスーツで一度、ビスポーク(いわゆるフルオーダー。採寸・型紙製作から仮縫いを経てようやく完成する仕立てのこと)を経験している。
またビスポークをオーダーするテーラーを探していたときに、たまたまWeb上の記事で目に留まったのがカブトだった。
サルトリア・カブトを切り盛りする甲祐輔(かぶと ゆうすけ)氏はイタリア・フィレンツェの名門サルトであるリヴェラーノ・リヴェラーノで修行した経験を持つ。
修行後はフィレンツェで自身で注文を受けていた甲氏が、帰国後に東京や大阪・神戸などの大都市ではなく故郷である七尾に拠点を構えたことに興味を持った。スーツの仕立て、それも高価格となると主要な顧客は大都市圏の高所得者層になりそうなものだ。それをあえて、大都市圏からのアクセスの悪い地方都市に腰を据えるというのは、地元愛もあるのだろうが、彼の自信の表れであるように思えた。
Webでの少ない情報によると、海外からのオーダーもあり、納期は1年半ほどもかかるという。
納期の長さや事前情報の少なさに不安はあったけれど、どうせ高価なスーツを注文するのならありきたりではない経験がしたいという思いがあり、思い切ってアポイントをとってみた。
7月に金沢に旅行する計画があったので予定が合えばそのついでに七尾まで足をのばしてとも考えていたが、あいにくその日程では都合がつかず、8月下旬に訪問する約束をした。
サルトリア・カブトのアトリエはJR七尾駅から徒歩10分ほどの場所にある。
廃業した旅館を改装した建物だそうで、外観は黒塗りの壁や引き戸と、真新しく見える庇の横木と柱のコントラストが印象的だった。
屋内に入ると、正面の奥で2人のスタッフが作業しているのが目に入った。
出迎えてくれた甲氏は、自作であろうチェック柄のジャケットを身につけていた。暖色系のジャケットが柔らかい雰囲気を出している。
挨拶もそこそこに、入り口から右手に設けられた生地の棚を前にして、僕がカブトを知ったきっかけや、どういう服を希望しているのかといった会話が始まった。
続いて生地をバンチから選ぶ。
これに一番時間がかかったと思う。他のテーラーでオーダーする時もそうだが、実際に生地に触れ、見比べていると当初自分の抱いていたイメージから少し外れているがこちらの方がよいかなと思えてくるのがだ。
濃紺にチョークストライプが入ったものを考えていたのだが、結局は写真のようなネイビーの無地でやや光沢を控え目の生地にした。
仕様はスリーピース・スーツで、シングルブレステッドの段返り3つボタン。
胸ポケットはバルカポケットで、腰ポケットはフラップなし。
パンツの前立て部分はジップフライ(ファスナー)。ボタンフライの方がクラシックではあるが、前に他で仕立てた経験から、日常的に使うにはやはり面倒くさいというのが正直な感想だった。
続いて採寸だ。これはいつやっても、少し緊張する。
もちろんリラックスした状態で測ってもらうことが望ましいのはわかっているけれど、そう意識するほどどこかに力が入ってしまう。
尤も、甲氏はそんなことには関係なく手慣れた様子で僕の身体の各部を測ってはスタッフに数字を伝えていく。余談だけれど、僕にはどこの数値がいくつなのかさっぱりわかりない。
マナー違反かも知れないけれど、いちど測ってもらった寸法を教えてもらえないかなと思っているが、いまだにどこでも訊くことはできていない。
採寸が終わったら、一通りの作業は終了。支払いをする段になって、はじめて金額を提示される。
パターンオーダーだとベースの価格があって、生地のグレードやオプションによって上積みされていく形式だが、フルオーダーなのでそういうメニューはないようだった(内部的にはあるのかも知れないが)。
事前にスーツは45万円以上というweb情報を目にしていたし、スリーピース・スーツなのでもっと高いだろうなとは想像していたけれど、提示された金額を目にして内心ギョッとしたのは事実。
詳しくは書かないけれど、まあ都内の某有名サルトリアの最低価格以上ではあったとだけ。
もちろん、そんなことはおくびにも出さず、さらっとカードを出して支払いを済ませる。
そういえば、肝心の納期を訊き忘れていた。
訊ねると、年末か1月に東京でのオーダー会があるそうで、それに合わせて仮縫い予定とのこと。その後は、また半年後の東京でのオーダー会に合わせるか、こちらの都合がつくならアトリエを訪問するのに合わせて納品だそうだ。
いずれにせよ、1年半かかると事前に得ていた情報よりもどうやら若干早く完成する見込みのようだ。
もっとも、オーダーした品がすぐに出来上がるのではなく、完成するまで待つ時間というのもビスポークならではの楽しみかも知れない。
良いモノを作るのは一朝一夕ではできない、と知ったようなことを書いてみる。